このコミカルな猫がさっそうとみんなの前に進み出ます。

 

 何だか、まともに歩いてはいるのですが、その歩くリズムがおかしいような気がします。みんなの前にまで出てくると、立ち止まり深々とおじぎをしました。おじぎの仕方も少しおかしいような感じです。それを見ていたまわりの猫たちの中から、クスクスと笑いが起こり始めます。ゆっくり歩いていたかと思うと、パッと急に振り向いて、おどろいたようなしぐさをします。またクスクスと笑いが起きます。そして次々に色んな猫のしぐさをものまねしたり、おかしな動きをするので、もう、それを見たまわりの猫たちは大きな声で笑ってしまいます。この広場全体が笑い声でいっぱいになりました。

 

 このコミカルな猫は、みんなを笑わせて楽しい空気を作ることが自分のできる最高の仕事だと思っています。

 そして、みんなの笑いのある中、またまたおかしな歩き方のリズムで、さっそうとその場から退場して行きました。

 

 

 白毛の仔猫は、その明るい雰囲気を見て、「この空き地の広場がこんなに笑いでいっぱいになって楽しい雰囲気になるなんてすごい。生きていて幸せを感じる時ってこういう時かもしれない」と思うのでした。

 

 

 

 広場全体が大きな笑い声で楽しい雰囲気がまだ残っている中、一匹、ずっと笑わず、顔を下に向けている猫がいます。体の毛並みはよごれてボサボサっとしていて、目も半分閉じてしまって体にぜんぜん力がないようです。

 このうす汚れた猫は、参加資格がありますが、自分がみんなの前に出る番になっても、前には出てきません。

 次の猫が出てこないので、まわりの猫たちはだんだん静かになり、次はだれの番なんだ、と言い合いながらキョロキョロしだし、そしてそのうす汚れた猫が次の猫だと気づくと、みんなだまってしまうのでした。

 

つづく