このメールは、その国から送られてきてます。不思議だなあ、と思いつつ、メールを読んでみました。

 

「 はじめまして。私はマルゴーと言います。私は13歳で、妹があなたと同じくらいの歳です。

 あなたは、私の国を好きになってくれたのかしら。すごく一杯調べてくれたそうですね。

 あなたが知っているように、私の国はとても美しい国です。でも、今は外に出れないので、その美しい景色を満喫することができません。はやく外に出れると良いな、と思いながら日々を過ごしています。」

 

 少女は、感染症で外に出られないのかな?と思いつつ、メールを読むのを続けました。

 

「 この国はとても豊かですが、昔は、色々苦労もしたようです。なんと、この国の四分の一は海より低いんです。それで、水害などがよくありました。でも、国の人たちは力を合わせ、風車で水を上げたり、堤防を作ったりして、街造りをしたそうです。そして、その低地であることを利用して、運河を張りめぐらせ、たくさんの重いものを運んだり、大きな港を作って遠くの国との貿易をしたりして、世界で最も裕福な国になることができたんです。それでこの国の役人たちは、世界一であることを‘‘我が国の誇りだ!‘‘と言って喜んでいたそうです。

 たしかに、人の力でそこまで出来るって、すごいことですよね。

 でも、人の力って、いつもいいことばかりするわけではないようです。昔、何度か、戦争があって大変な思いもしたそうです。戦争も人の力によって行われることですから。・・・今の戦争も、そうですね。」

 

 今も?と思いましたが、読み続けました。

 

「 それでも昔の人たちは頑張って、また国づくりをして、人々が豊かに生きていけるようにしていったのです。

 風車の建造もその一つです。昔はこの風車が10000基もありました。すごいでしょ!私は風車が好きです。この風車は、この国に合ってます。この国には風がいつも吹き続けています。この風の力を利用して力強く回って、人にはできない重たいものを持ち上げる仕事とかをしてくれます。しかも、とっても静かです。

 ここだけの話ですが、妹のボーイフレンドがとても頭が良くて、色々話をします。妹には内緒ですよ。やきもち妬きますから。

 その男の子が、風の仕組みを教えてくれました。そうです、風車でなくて、風の仕組みです。変わった子ですよね。しかも、その風を自分が作っていると言うんですよ。ますます変ですよね。でも、その子の話はとても面白くて、聞き入ってしまうんです。

 その男の子も、今の状況を悲しんでいました。自分が作ったものがたくさん壊されているって言っていた。それは悲しいですよね。

 でも、私は、いつか必ず本当の幸せがいつまでも続く平和な国が来ることを知っています。その時には、遠い国にいるあなたとも、たくさんおしゃべり出来ることを楽しみにしています。

 そうそう、この手紙は、その男の子があなたに届けてくれると言っていました。

 無事、あなたに届きますように。」

 

つづく

 少女の目の前には、うす空色のガラス窓がぼわあと見えていて、外は晴れているようです。

 

 最近、世界的な感染症という、人から人へうつる病気がはやりだして、どこにも行けません。でも、少女は部屋の中で本を読んだりしているので、けっこう楽しく過ごしています。

 

 けれど、少女の目の前にある、うす空色のガラス窓を見ていると、外はどんなふうになっているかをいろいろ考えてしまいます。

 

 この部屋を出て、家を出て、町を出て行っても、うす空色の空気は続いていて、そのまま上空にのぼって10000メートルくらいまで行ったらどうかな、うす空色でなくなるかな?と考えます。ちょっと寒そうなので、そのまま下へ降りてくると、別の国に行けるだろうな、と思います。

 そういえば、昨日、パソコンで地球儀を自由に行き来できるものがあって、自分の国からずっと離れた向こうの大陸の隅っこの方に、赤いレンガと赤い屋根で作られた家がきれいに並んだ国があるのを見たことを思い出しました。

 

 その国が、おとぎの国のようで、とても興味がわいて、色々調べてみたのです。

 

 街の中を運河という川がおだやかに流れていています。幾世紀も昔に造られたそうですが、今でも使われています。街の建物は同じ高さでそろえられて、おうぎじょうの町並になっています。田舎の方へ行くと、農地が広がっています。農地では、この国の人たちが十分に食べていけるだけの作物が作れているとのことでした。風車も回っています。この風車の力はすごくて、川からの水をくみ上げて、農地に水を配るそうです。それで農地がうるおっているようです。風車はそれ以外にも、穀物を粉々にしたり、木を切ったりもしています。

 

 少女がこのようなことを考えていると、パソコンにメールが届きました。? 見知らぬメールです。昨日、その国のことを調べていた時に、その国のホームページとかいろんなところにアクセスしたので、それで何かのお知らせかな、と思いつつ、メールを開けてみることにしました。

 

つづく

 少女はこの国で一番大きくて裕福な都市に住んでいます。

 

 ある晴れた日に、この都市で一番高い塔を見に行きました。

 その塔は遠くからヒュッと建っているのがわかりますが、そこへ行くための電車の中からは見えたり見えなくなったりして、そして、そこへ近づきだすと、遠くからヒュッと見えていた塔の下の方だけしか見えなくなり、それがだんだん大きくなってきて、もっと近づくと、遠くからヒュッと見えていたものが、もう電車の窓からは見えなくなっていました。

 電車が到着すると、少女は外に出て、それを見つけるために見回しました。どこにもないな、と思っていると、すぐ後ろに、白くてまるい鉄の柱が網のようにしていくつも織り重なって、上へ上へとそびえ立つ塔がありました。上のその先は高すぎて、まっ青な空の中に吸い込まれているようでした。

 その塔をよく見ようと、塔の柱の足元まで来てみると、塔の白いまるい鉄は柱というより大きなかたまりで、地面のずっとずっと深いところまで埋まっているようでした。そして、白いまるい鉄の大きなかたまりが大きすぎたので、それをどうやってそこに埋めたのか分からず、じっと見ていると、初めからここに埋まっていた自然の鉄なんじゃないかな、と思えてきました。

 少女は自然というものが、想像以上に大きいということをいろんなメディアから見聞きしていたのです。ある外国の、海が割れたような大きな滝を見たこともあります。それはゴオオというものすごい音を立ててたくさんの水が落ちていました。あるいは、見わたす限り塩の色をした平面が続く、広い広い鏡のような湖を見たこともあります。そのように、大きかったり広かったりするものを知っていたので、鉄の大きなかたまりも、もともと埋まっていたかもしれないと思うのでした。

 

「そのとおり!」

 少女は自分が話しかけられたのかなと思いましたが、そうではないようです。大人の男の人が3人、少し嬉しそうだけど少し怒っているような、とにかく力いっぱいしゃべり合っています。

 

「どうだね、この高さ。世界一だぞ。我が国の誇りだ」

「この技術を見てくれ。最新の技術だ。むこう十年どこの国にも抜かれることはない」

「どれだけのお金がかかったと思う。400億だぞ」

「そのとおり!」

 3人はこのようにしゃべり合っているのですが、どの人がどのことをしゃべっても、とても満足げに聞いていて、そして自分の番がくると、とっておきの誉め言葉で、すかさずしゃべるのでした。

 しばらくそのようにしていましたが、少女が大きな白い鉄のかたまりをずっと見ていることに気付くと、これはこれはというふうに、少女に話しかけてきました。

 

「あなたもロマンを感じますか。当然のことです。我々人間の英知の結晶ですからな・・・この塔はこの都市のどこからでも見える。この都市にいる人は皆この塔を見て、人間の英知の結晶を感じる!はあ!それを私たちが完成させたのだ!いまだかつてこのようなことを成し遂げた人間はいないだろう!私はこの塔のために自分の人生を捧げてきた!」

 これを聞いていた他の二人は嬉しさのあまりいよいよ汗がふきだしてきて、何か誉め言葉を言おうとするのですが、口はこきざみにふるえ、肩にも力が入りすぎて、声が出なくなっているようでした。

 そしてその後すぐ、3人は急に、風船のように体がちぢんでちっちゃくなり、髪の毛も真っ白になって、立っているのがやっとというぐらい足が細くなりました。けれど、顔は嬉しそうで、3人はお互いに、うんうんとうなずきあっています。

「いやあ、ほんとによくやった、よくやった。おじょうちゃん、あんたも頑張んなさい」

 と、少女に言うと、ふううっと消えてしまいました。

 

 少女が先ほどの大きな白い鉄のかたまりを見ると、それはその大きいかたまりのまま上の方へ連なっていて、その上のところでは、空気がなみうち、ひゅうひゅう音を鳴らしていました。

 

つづく

 

 次の日の午前中、並木道をくぐると、きのう見たピンク色の花びらの中に、やわらかい小さな緑色が少しずつ少しずつ混ざり始めています。匂いも、甘い匂いから、みずみずしいはっかのような匂いにかわっています。

 

 少女はその混ざった色をきれいだなあと思っていました。すると、突然後ろの方から男の子の声がしました。

「どうだい、この混ざった色もいいもんだろ。まあ、僕にしか作れないんじゃないかな」

 とても頭の良さそうな男の子でした。

「君はいつもここを通るよね。いやあ、僕の作品に興味を持ってくれてるんじゃないかって、嬉しく思っていたんだよ」

「これ、あなたが作ったの?」

「まあ、そういうことだな」

「どうやって作ったの?」

「知りたい?では、教えてあげる」

 男の子は待ってましたと言わんばかりに、腕を組んで、その自分の作品を満足げに見つめ、ピンク色の花びらが持ちこたえられずスッと落ちてくると、話し始めました。

「まず、水の分子と・・・いや、そこからじゃないかな。・・この木は一つの目的を持たせている。根を張ってそれと同じ分だけ上方に枝を張り伸ばす。その時太陽の光を十分に受けられるようにしつつ、地面から数メートルくらいをみんなのための空間を作るようにしてある。いつも君はその空間で楽しんでくれてるよね」

「うん」

「でもそれだけじゃないいんだ。いま、花びらが一枚落ちたよね。1822枚の緑色の小さな葉っぱと1756枚のピンク色の花びらの中からピンク色の花びらが一枚なくなると・・・・君は何か感じるかな?おっと、きっと君は気づかないはず。そうだよね。1822枚の緑色の葉っぱと1756枚のピンク色の花びらからピンク色の花びらが一枚なくなって1822枚の緑色の葉っぱと1755枚のピンク色の花びらになったところで君にはわからない。でも、実際には、0.000591217だけ変わってる。それでもう一枚落ちればまた変わる。それを君は見ていて感じている。そう、気づいていないけど、感じているんだよ。昨日もたくさん変わった。ピンク色ばかりだけどね。こっちのほうが難しいのさ。そしてその情報量の多さに、時間の流れがゆっくりに感じる。昨日君そうなっただろ?」

 少女は確かに昨日この木を楽しく見ていました。けれど、何か感じていたかなあ?

「時間をゆっくりに感じたことが証拠さ。君は芸術家になれる。作品を作れる。僕と同じようになれるよ」

 男の子はとても嬉しそうな顔をして少女の方を見ていました。そしてその後「また会おうね」と言ってずっと先の方へ走っていき、ふっと消えてしましました。

 上を見上げると、葉っぱと花びらがいよいよふるえるようにして騒いでいるようでした。

 

つづく

 甘い匂いのするピンク色の花びらがひらひら・・くるりくるりと舞っています。

 

 少女は忙しい毎日を送っています。それで、いつの間にか、寒い季節が過ぎて、甘い匂いのする季節がやってくるのです。

 少女がこの並木道をまっすぐ歩く10分間はこの甘い匂いの下をくぐります。少女が道を逸れると甘い匂いは消えます。でも、道を逸れなければ、ずっと甘い匂いの下をくぐり続けることができます。

 それで今日は、道を逸れずに立ち止まり、その先をじっと目を凝らし見続けてみました。

 

 ひら、ひら、くるりくるり、まあるいものが舞い降りています。少女のすぐ上にも、少し先の方にも、大分先の方にも、もう小っちゃくてよくわからない先の方にも、細かなつぶのようになっていますが、ひら、ひら、しているように見えました。

 

「こんな気持ちの良い日なら、いつもこうだといいのにな」

 

 少女がそう思ったときに、ひら、ひら、としていたものが、しばらく浮いたままになり、そのひらひらは空に描かれた模様のようになりました。けれど、次の瞬間、風がわっと吹き、ひらひらが舞い上がったかと思うと、また、ひら、ひら、くるりくるり、と下に降りてくるのでした。

 

 それで、気づいた時には長い時間ここにいたと思い、急いで家に帰りましたが、家に着くとママはいつも通り「お帰りなさい」というので、少女が長い時間外にいたことに気付いていないようでした。

 

 

                                つづく

童話 1 

 少女はいつもここに来ると立ち止まりました。ここは他のところとは違う感じがしたのです。

 

 それは、明るい、熱い、流れる、少しこそばゆい、抱きしめたくなる、そんな空気が充満しているところです。

 

 でも、そこから数歩離れると、もう、そんな空気は感じることが出来なくなってしまいます。もうそんなものはなかったような気さえしてきて、落ち着いてしまいます。

 

 そして日常に戻ります。

 

 日常は普通です。日常には笑いがありますし、美味しいものも食べられますし、何一つ不足しているものはありません。日常の中で十分生きていけます。

 

 日常の中には心を奮い立たせるものもあります。それは人間の世界が作った贈り物です。その贈り物は心を奮い立たせ、人のエネルギーを全開で消費させています。しかし、この贈り物に心を震わせる人は、炭がふいごで風を受けて真っ赤に燃えた後白い灰になってしまうように、ある時ふっとエネルギーが尽きてそのまま固まって動かなくなってしまうのです。

 

 でも少女は、そういうことをテレビとかで見たりはするけど、自分の周りでは見たことがありません。この人間の世界が作った贈り物のことは、おもに大人の人たちの間で行われることだというふうに聞いています。幸い少女のお父さんとお母さんは白い灰のようになって動かなくなってはいないので、そのような危険な贈り物からは遠く離れているようです。

 

 日常の中には、時を伸ばしたり縮めたりするものもあります。しかしこれは人間の世界では作れず、誰が作ったかもわかりません。このようなことが起こるのは、おもに子供の人たちの間でのことのようです。犬や猫の間でもこのようなことがあるように見えますが、言葉として聞くことが出来ないので確認できません。逆に、言葉にし過ぎる大人はそれを感じなくなってしまうようです。ですから、子供が丁度良いのです。言葉をもってはいますが、言葉にし過ぎることがないから、時を伸ばそうとする力に身を委ねることができるのです。

 

 このような不思議なことがあっても、日常は普通です。みんなそう思っています。

 

 少女も日常は好きです。

 

                                 つづく